ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー/原題 REVEL IN THE RYE  

孤独のなかで言葉があふれ出す(ファントム・フィルム

〓DATE

2019.1.20(日)Screen10(CINEMA IKSPIARI

〓FILMMAKERS

監督・脚本・製作 ダニー・ストロング、原作 ケネス・スラウェンスキー「サリンジャー 生涯91年の真実」2012、製作会社 ブラック・ラベル・メディア、配給 IFCフィルムズ(米) ファントム・フィルム(日)

〓CAST

ニコラス・ホルト(J.D.サリンジャー)、ケヴィン・スペイシー(ウィット)、サラ・ポールソン(ドロシー・オールディング)

〓閲覧制限

なし

〓ご注意

以下の文章にはネタばれを含みますのでご注意ください。

〓概要

 第二次世界大戦(ヨーロッパ戦線)への出兵を挟んでの、J.D.サリンジャーの創作意欲の変遷、自分を主人公 ホールデン に置き替えた『ライ麦畑でつかまえて(1950)』の誕生、人気作家として大成功を収めるも社会との繋がりを絶つにいたる経緯などが描かれた作品。

 特には壮絶な戦争経験によるPTSD心的外傷後ストレス障害)がサリンジャーに大きな傷跡を残している様子が描かれている。

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〓cinemaeyes

 今年はJ.D.サリンジャー(Jerome David Salinger、1919.1.1~2010.1.27)の生誕100周年、『ライ麦畑でつかまえて(1950、The Catcher in the Rye)』は全世界累計6500万部、日本では村上春樹の新訳でさらにファンが増えたという。人気作家として成功を収めるも自ら身を引いていくのだが、そのことが本人の意図とは逆にサリンジャー人気を高めることになったという。

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 何かの得意的才能に溢れた人は、周りの人を幸せに出来る才能までは持ち合わせられないのだろうか?サリンジャーの場合は自然とあふれ出す言葉の数々をタイプしていくため、時には何日間も家族をないがしろにして創作活動に没頭するのだが、そのことが妻には理解されず、妻を孤独に追いやってしまう。

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 言葉があふれ出すとき、何かの発想を思いついたとき、家族サービスに転じてしまったら、その時の集中力が揮散し、折角思いついた言葉の数々も薄くなって消えていくものだ。ではメモをしたらいいのでは?と思うのだが、サリンジャーの場合はその時にたくさんの言葉が溢れてくるものだからメモレベルの量では足りなかったのだろう。

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 サリンジャーはたくさんの良き理解者に恵まれたとして描かれている。特に、サラ・ポールソン演じるドロシー・オールディングはサリンジャーのことを最も理解してくれた一人だったようだ。サリンジャーがもう書くのを止めようと思うと相談した際には、サリンジャーが自らの収益源であるにも関わらず、止めることに理解を示したのだ。

 『オーシャンズ8(2018)』でも サラ・ポールソン は豊かな個性の一人を演じていた。清楚で安定感のある役柄にはピッタリな女優さんだ。

 また、母のミリアム・サリンジャーは最初から最後まで惜しみない応援をしてくれたようだ、『ライ麦畑でつかまえて(1950、The Catcher in the Rye)』は表紙をめくると ´母に捧ぐ´ の一文がある。息子には才能があるとしていつも応援してくれる姿が描かれている。

 『ライ麦畑でつかまえて』を読んだことがある人は文中に何度か出てくる表現が、本作のシーンで実写化されていることに気が付くだろう。この映画を観る楽しみはそんなところにもある。
www.rebelintherye-movie.com