ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書/原題 The Post

〓FILMMAKERS

監督 Steven Spielberg、脚本 Josh Singer & Liz Hannah、音楽 John Williams、製作会社 Dreamworks SKG、配給 🇺🇸20th Century Fox 🇯🇵東宝東和、公開 🇺🇸2018.1.12 🇯🇵2018..3.30、上映時間 116分

〓CAST

Meryl Streep(社主キャサリン・ケイ・グラハム)、Tom Hanks(編集主幹ベン・ブラッドリー)、Bruce Greenwood(ロバート・マクナマラ国防長官)、Bob Odenkirk(元ランド研究所 編集局次長ベン・バグディキアン)、Matthew Rhys(元ランド研究所軍事アナリスト ダニエル・エルズバーグ) 

〓AWARD

第90回アカデミー賞 2部門ノミネート(作品賞、主演女優賞

〓概要

 「報道が仕えるべきは国民であり、政権や政治家ではない。」米国最高裁判所の判事による判決理由だ。経営の判断に迷う時は基本に立ち返る。そう、新聞社の使命とは何かをだ。新聞社の場合は報道の自由に基づき、国民に真実を伝えることを選ぶということだった。ワシントン・ポストにとってはこの判決がローカル紙から脱皮するきっかけとなった。

 この映画の舞台は当時はローカル紙にすぎなかった The Washington Post、同族経営ではあるが株式公開を控えていた。社主には守るものがたくさんある、受け継がれてきたこの新聞社、たくさんの社員、社員の家族、政界の友人(元大統領夫妻や元国防長官など)そして自分の家族。これらかけがえのない財産、幸せを失う可能性があっても、新聞社の使命を全うできるか?この時、ニクソン大統領は法を振りかざし、あらゆる方法でワシントン・ポストとその責任者への制裁を加えてくると言われていた。果たして、国家の最高機密を守るのか、報道の自由を守るのか?本作はアメリカの自由が脅かされる可能性があった時代を描く社会派作品だ。

 冒頭、ヘリコプターの音が聞こえてくる、ジャングルの中での戦闘シーン、これまでたくさんの映画で再現されてきたシーン。鬱蒼としたジャングル、夜、雨、若き兵士たちはかき分けて進んで行く、突然の爆発、見えない敵から浴びる銃弾、兵士たちが倒れていく、並ぶボディバッグ(死体袋)。戦場の最前線には軍の制服組はいないし、政治家なぞ誰一人いない。軍事アナリストのある調査官が命がけの最前線視察により泥沼化を伝える報告をする、しかしベトナムから帰国した国防長官はメディアへの第一声でアメリカの勝利を伺わせる発言をしてしまう。

 この調査官からニューヨーク・タイムズへ、そしてワシントン・ポストへ、4000ページに及ぶ最高機密文書のコピーが手渡される、これが『ペンタゴン・ペーパーズ』だ。歴代4人の大統領がベトナム戦争と関わった真実が記されている。戦局が厳しいことを知りつつ、戦争で初めて負けた大統領にはなれないとして歪められてきた事実を伺わせるものだ。果たして、この最高機密文書の内容を世に報道すべきか否か?社主は究極の判断を求められる。

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 社主のケイことキャサリン・グラハムは女性だ。この時代はまだ男性優位社会のため、社主に代わって会長がコメントを求められるシーンも描かれている。そして、ケイもそんな男性社会の中で控えめな対応をしていた。しかし、ペンタゴン・ペーパーズを入手してからは状況が一変、経営陣の緊張感が一挙に高まる、何しろ社内の意見が二分するのだから。使命に燃える編集局と印刷工場の現場は印刷開始の指示を待っている。最後の最後に女性社主ケイはすべての意見を制し発言する「私が社主だ、私が判断する」と。そして彼女が下した究極の判断は、ワシントン・ポストだけではなく、女性の地位向上の道のりとも繋がっていた。

〓cinemaeyes

・時代背景

1971年、時の大統領はリチャード・ニクソンニクソン元大統領はこの後、ウォーターゲート事件に関与することになる。1963年ケネディ大統領暗殺、1967年マクナマラ国防長官辞任、1971年ペンタゴン・ペーパーズ事件、1972年ウォーターゲート事件、1973年ベトナム和平協定調印、1974年ニクソン元大統領辞任

ベトナム戦争

 アメリカのベトナムへの本格兵力投入は1965年〜1973年、1968年には54万人の兵力が投入されていた。直接的にはケネディ、ジョンソン、ニクソンらの元大統領が関与。あまり語られないが、南ベトナム政権側には、韓国、タイ、フィリピン、オーストラリア、ニュージーランドなども参戦している。全体の犠牲者数は数100万人単位にのぼる。

・女性の社会進出

 社主のケイことキャサリン・グラハムは女性だ。この時代はまだ男性優位社会のため、社主に代わって会長がコメントを求められるシーンも描かれている。ケイもそんな男性社会の中で控えめな対応をしていた。しかし、ペンタゴン・ペーパーズを入手してからは状況が一変、経営陣の緊張感が一挙に高まる、何しろ社内の意見が二分するのだから。使命に燃える編集局と印刷工場の現場は印刷開始の指示を待っている。最後の最後に女性社主ケイはすべての意見を制し発言する「私が社主だ、私が判断する」と。そして彼女が下した究極の判断は、ワシントン・ポストだけではなく、女性の地位向上の道のりとも繋がっていた。

 ・新聞社内の広く大きな事務所

 もの凄い多数の社員のデスクワークのシーンがたくさん出てくる。とても映画とは思えないリアルなつくり込みだ。積み重なる書類、タイプライター、電話、タバコ、名刺入れ、そして何よりも役者の数が凄い。

・植字印刷と印刷工場

 活版印刷技術がアップになって映し出される。職人により文字の金型が組み合わされて新聞の型に落とし込まれていく。アナログな印刷技術は匠たちの世界、とても味わい深いシーンだ。刷られたばかりの新聞が、下へ上へとコンベアに乗って流れていくシーンは見慣れぬ世界に迷い込んだようで、新聞印刷の世界をたっぷりと味わえる。

・献辞「ノーラ・エフロンに捧ぐ」

 ノーラ・エフロン(1945〜2012)は脚本家・監督だ。2012年に71年の幕をおろしている。『恋人たちの予感』『めぐり逢えたら』『ユー・ガット・メール』『心みだれて』などで監督や脚本を務めている。メリル・ストリープトム・ハンクスはこれら作品の主演を務めている。また、ウォーターゲート事件を追っていたワシントン・ポストの記者カール・バーンスタインとは一時期結婚していたという。

〓リンク

本作の最後に民主党事務所の中で行われたウォーターゲート事件のシーンがさりげなく描かれている。昔見た『大統領の陰謀(1976)』はウォーターゲート事件を追うワシントン・ポスト紙の記者の映画だが、この作品と重なるようなシーンとなっている。当時は面白い映画とは思えなかったが、コツコツ取材調査を重ねていく若きロバート・レッドフォードダスティン・ホフマンが印象的な作品だ。